本日 12 人 - 昨日 0 人 - 累計 33574 人

スラム街の女、ギャングスターを目指す 10

  1. HOME >
  2. スラム街の女、ギャングスターを目指す 10
 僕達の前に現れた、亀と魂の入れ替わった人物ポルナレフが言ったことは2つ。
すでに僕たちの探すボスはこのコロッセオに侵入している、そしてボスも自分達と同じように魂が入れ替わっているということ。
そしてもう一つは、人によってはスタンドを進化させる力を持った黄金の矢を持った彼のスタンドが歩き回っているということだ。
「君達がディアボロに勝つためには、その力を手に入れるしかない。恐らくディアボロも、それを狙っているだろう。」
これから僕たちがすることは、ボスに奪われる前にその黄金の矢を得ること。
そしてその矢の力を手に入れることだった。
矢の力を得たポルナレフのスタンド、シルバーチャリオッツレクエイムと対峙する中で、僕たちはディアボロと魂の入れ替わったブチャラティと合流した。
しかし、レクイエムが落とした矢を手に入れようとすれば、矢による妨害を受けた。
「この矢の力は、精神を操る力。魂が入れ替わったのも、その力の一環だ。」
さきほどスティッキーフィンガースに攻撃されたブチャラティが呟いた。
「スタンドは精神の生み出すビジョン。精神を操る矢を奪おうとすると、この矢は直接そのスタンドに働きかけ、自身を防衛し、矢に触れたものを排除しようとするんだ。」
それから矢に触れるチャンスはあったものの、自身のスタンドに妨害されるということの繰り返しだった。
ボスに見つかる間にと焦る中で感じた、一瞬の違和感。全員が同じものを感じているようだ。
「い、今…」
「飛んだぞ!時間が数秒消し飛んだぞ!」
その力を、僕たちは知っていた。
しかしそうなると、一つ奇妙なことがある。
「出ていない!ブチャラティと入れ替わっているはずのボスからは、スタンドが出ていなぞ!」
「ナランチャ!周囲を調べろ!周囲に人はいないか!」
ブチャラティの呼びかけに、返事は返ってこない。
その時僕の目に映った、見慣れた天道虫のブローチ。そしてそれに纏わりついた赤。
「そ、そんな…」
僕は自然と口を覆った。
全員の視線が、僕が見ているものに集中する。
壊れた鉄柵に貫かれたナランチャを、全員が見上げた。
「早く!早くナランチャを下ろすんだ!」
「ジョルノ!治療を頼む!」
全員が下ろしたナランチャの魂が入っていた僕の体を治療する。
しかしやる前から、僕には何となくわかっていた。アバッキオのときと同じ感覚。
僕の力は、傷を治せても…命までは治せないのだ。
「これは空洞。僕の魂は入り込めるほどに…もう、ナランチャの命は、ここにはありません。もう、消えてしまった。」
僕の魂が、自分の体に入り込んでいく。
自分の体に戻った僕の頬を、一筋の涙が伝った。
しかし今の僕たちには、ナランチャの死を悼み、嘆く時間はないのだ。
「君は必ず、故郷につれて帰る。」
僕に出来たのは、彼の体がこれ以上気付くか無いよう、花の中に隠すことだけだった。

街の中でレクイエムを追跡する中で、僕たちはトリッシュの魂に取り付いていたボスと対峙することになった。
ボスはすでにレクイエムから矢を取り上げる方法を知っているようだ。
「…ボスがそれを知っているなら、それはそれで利用すべきだ。」
ミスタとトリッシュがディアボロを追った後、僕は倒れた体を起こしながら呟いた。
先ほどの攻撃で吹き飛んだ僕の腕を拾い上げる。
僕を攻撃したことで、やつの掌には僕の血が付着している。僕の体を離れた時点で血は物質となり、僕のスタンドを発動できる。
早く、早く追いつかなければ。
腕を治癒しながら走る。早く皆に追いつかなければ。
ふらつく足で走り続け、そしてようやく追いついた。
そこで見たのは、貫かれるトリッシュのスパイスガールだった。
「トリッシュー!」
トリッシュの魂がミスタの体を離れるのが見える。その魂が、空に溶けていくのが見えた。
しかし、そこに吹いた一筋の突風。
「アンタが見つけたんだ。レクイエムを倒す方法を。」
ブチャラティの声が聞こえた。
「そいつを倒すには、精神の後ろにあるこの何かを、壊せばいいらしいな。」
首の後ろにある光を発する何か。それに入っているのは見慣れたジッパー。
「コレを壊せば暴走したレクイエムは破壊され、入れ替わった魂も元に戻る。」
トリッシュの体にあったミスタの魂が外に出て行く。
そしてトリッシュの魂が、トリッシュの体に戻っていく。

「後は頼んだぞ、ジョルノ。」

魂が離れる瞬間、微笑むブチャラティと目が合った。

「お前はもう、どこへも向かうことは無い。死という真実には、決して。」
矢が選んだのはディアボロでは無く、僕だった。
矢の力で覚醒したゴールドエクスペリエンスレクイエムによって、ディアボロは永遠に死に続けるだろう。
そして彼が死という終わりを迎えることは、絶対に無いのだ。
「おい!早く来いよ、ジョルノ。お前がいないと誰がブチャラティを治療するんだ。」
遠くでミスタの声が聞こえる。
僕は空を見上げた。夜は明け、昇ったばかりの太陽の光が降り注ぐ。
その中に、僕はブチャラティの影を見た。
「ジョルノ。俺達のことは気にするな。本来あるべきものに、俺たちは戻っただけなんだ。」
彼の顔はいつもと変わらない。凜とした、落ち着いた表情。
「俺たちがここに到達したことが、本当の勝利なんだ。そして俺達をチームの奴隷としての人生から解放したのはお前だ。ジョルノ。」
そういって、ブチャラティの影は日の光に溶けた。
頬を涙が流れる。この戦いの中で死んでいった仲間のことが、次々に頭をよぎった。
ナランチャは気付いていたのだろうか。僕の中にあった、忘れかけていた気持ちに。
僕が、ずっと夢に見ていた気持ちに。
「あー…おい、ジョルノ。」
肩に置かれた手の暖かさに我に帰る。
振り向くとミスタがいた。涙を流しているのに少し驚いたようだ。
「わ、悪い…トリッシュが行けって言うからよぉ…」
「大丈夫ですよミスタ。すぐ行きます。」
涙を拭ってコロッセオに向けて足を踏み出す。
「あー、あのよぉ!」
ミスタに腕を掴まれ、引き止められる。振り向くと、やけに真剣な顔の彼と目が合った。
「どうしました?」
「俺が、この任務あったらするって言ってた話、覚えてるか?」
コロッセオに向かう前の会話を思い出し、頷く。
彼はやけに照れくさそうに、頬をぽりぽりと搔いていた。
「その…帰ったらさ、2人で飯でも食いに行こうぜ。その後で、映画でも…」
しばらくそんな事をぼそぼそ言っていた。
しかし、急に頭をぼりぼり搔いて、意を決したように声を上げる。
「お、俺とデートしようぜっつってんだよ!ギャングスターさんよ!」
突然の大声に驚いたが、その言葉に対する驚きのほうが大きかった。
その言葉の持つ意味。僕と、デートをしたいといったのか?
「…ええ、構いませんよ。ただ、僕はデート初めてなので、エスコートしてくださいね。」
それだけ行って僕はコロッセオに歩き出す。
熱を持った顔を隠すために。
後ろの方で、ミスタが何かいっている気がしたが、僕の耳には入らなかった。

僕は一つの夢、ギャングスターという夢を叶えた。
そしてきっと、僕のもう一つの夢もかなうだろう。
なぜかわからないが、直感が僕にそう告げていた。